海外出張中の事故は労災保険が適用される?認定要件や手続きの方法など解説!
「海外出張中に怪我した場合、労災保険は適用されるの?」
海外出張における労災保険の適用は、条件や手続きが複雑で、ケースによって判断が分かれることがあります。
現地でトラブルに巻き込まれた際に「労災が適用されると思っていたが実際には適用外だった」というケースも考えられるため、事前の確認が重要です。
では、どのような条件で海外出張中の事故が労災保険の対象となる可能性があるのでしょうか? また、申請にはどのような手続きが求められるのでしょうか?
本記事では、厚生労働省の基準に基づき、海外出張中の労災保険適用の認定要件や、申請の進め方について解説します。 いざというときに備えて、事前にしっかり確認しておきましょう。

目次
労災保険とは?出張と派遣の違いを知る

まずは、労災保険について解説します。
労災保険とは、通勤時や業務中に労働者が「負傷・障害・疾病・死亡」といった場合に、一 定の条件下で給付を受けられる公的な保険制度です。
雇用保険と労災保険を総称して、一般的には「労働保険」と呼ばれています。
海外出張の場合、労災保険の適用を検討されることがあります。 しかし、海外派遣先で事故に遭った場合、日本の労災保険が適用されないケースも。
理由の1つとして、海外に行く目的が「出張」と「派遣」で異なる点が挙げられます。 以下に、出張と派遣の違いをまとめました。
内容 | |
---|---|
海外出張 | 日本に所在する会社の指揮下で業務を遂行する |
海外派遣 | 海外にある会社の指揮下で業務を遂行する |
「海外出張」と「海外派遣」では、労災保険の適用条件が異なります。 そのため、厚生労働省の基準を事前に確認することが重要です。
厚生労働省 | 「海外派遣と海外出張の区別| 」
海外出張中の労災保険は派遣だと適用されないことも

日本の会社による指揮命令のもとで海外出張が行われる場合、一定の条件を満たせば労災保険が適用される可能性があります。そもそも、労働者として企業に雇用されている場合、企業は労災保険に加入し、その保険料は会社が全額負担しています。
これは、日本の労働基準法に基づく企業の義務の1つです。そのため、海外出張中の事故が業務に関連すると認められれば、労災保険の適用が検討されることになります。
一方で、「海外出張」ではなく「海外派遣」として勤務している場合、原則として日本の労災保険の適用対象外となります。その理由は、海外派遣では、日本ではなく現地の企業の指揮命令下で業務を遂行するためです。ただし、例外として、海外派遣であっても「特別加入制度」を利用し、労災保険に加入している場合には適用されることがあります。この特別加入制度を利用するための主な条件の1つとして「日本国籍を持っていること」が挙げられます。
厚生労働省 | 「FAQ(よくある質問)- 労働基準行政全般に関するQ&A 」
海外出張と派遣において労災保険適用外となるケース

海外出張の場合、一定の条件を満たせば労災保険が適用される可能性があります。
しかし、全てのケースで適用されるわけではなく、状況によっては適用外になることも。適用の可否は、事故や疾病が業務に関連しているかどうかや、事業主の指揮命令下にあったかどうかなどの要素によって判断されます。ここでは、労災保険が適用外となった事例として考えられる2つのケースを紹介します。
ケース①|海外出張先にて持病が悪化した事例
海外出張中に発生した事故であっても、業務と直接関係のない私的な行動中の出来事は、労災保険の適用対象外になる可能性があります。
例えば、業務時間外に行った観光やショッピングでの事故、個人的な食事中のトラブルなどが該当するケースとして考えられます。労災保険は、業務に起因する災害を補償する制度。私的な活動中の事故については、原則として適用外と判断されることが多いようです。そのため、業務時間と私的な時間の区別を明確にし、私的な行動中のリスクに備えて海外旅行保険などの加入を検討することが重要になります。
ケース②|海外派遣先で新規採用した事例
現地の企業で新規に採用された場合、日本の労災保険が適用されない可能性があります。特に、日本の企業が従業員を海外派遣するのではなく、現地の法人や企業が直接雇用するケースでは、日本の労災保険の適用が難しいと考えられます。
例えば、日本企業が海外に支社持ち、その支社が現地採用の形で従業員を雇用した場合、労災保険の対象外となることが一般的です。労災保険の適用範囲は、原則として「日本国内の事業に使用される労働者」とされているため、たとえ日本企業の関連会社で働いていたとしても、日本の制度ではなく現地の法律や保険制度が適用される可能性がありま。そのため、海外派遣に伴う労災保険の適用を考える際は、雇用形態や契約内容が「日本の企業による雇用」であるかどうかを事前に確認することが重要です。
海外出張での労災申請は難しい?スムーズに進めるための手順と必要書類

海外出張中に事故や怪我が発生した場合、状況によっては労災保険を申請し、治療費や休業補償などの補助を受けられる可能性があります。しかし、日本国内での申請とは異なり、海外での申請には「必要書類の準備」や「手続きの流れ」を事前に把握しておくことが重要です。
労災保険の申請には、業務との関連性を示す証拠や書類の提出が求められるため、申請をスムーズに進めるための準備が欠かせません。ここでは、海外で労災申請を行う際に必要となる書類や、申請可能な労災保険の種類、申請の手順について詳しく解説します。
万が一の事態に備え、事前にしっかり確認しておきましょう。
労災保険申請で必要な書類
海外出張中に業務上の怪我や病気が発生した場合、一定の条件を満たせば労災保険を申請し、給付を受けることが可能です。ただし、日本国内での申請とは異なり、海外での申請には必要な書類の準備が求められます。
労災保険の申請に必要な主な書類は、以下のとおりです。
労災保険請求書
事故発生報告書
診断書(労災保険の種類に応じたもの)
給与証明書
通訳料支払証明書(必要に応じて)
領収書や支払証明書
各種請求書の様式は、提出先の窓口で交付を受けられる他、厚生労働省のWebサイトからもダウンロード可能です。
厚生労働省 | 「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」
申請できる労災保険の種類
申請は「ハローワーク(公共職業安定所)」または「労働基準監督署」にて受け付けています。提出方法としては、各種給付申請書に必要事項を記入し、前述の書類を添付して提出する形となります海外出張において適用の可能性がある主な労災保険の種類は、以下のとおりです。
労災保険の種類 | 内容 |
---|---|
休業(補償)給付 | 怪我や病気により仕事を休んだ場合、休業4日目以降から適用され、給与の約8割が補償される可能性があります。 |
療養(補償)給付 | 労災保険指定医療機関または労災病院での 治療費が無償となる制度です。その他の医療機関で受診した場合、一時的に全額自己負担となりますが、後日払い戻しを受けることができます。 |
傷病(補償)給付 | 傷病等級第3級以上に該当する怪我の治療が、1年6ヶ月以上に及ぶ場合に受給できます。 |
遺族(補償)給付 | 労働者が業務災害により死亡した場合に、遺族に対して給付が支給されます。 |
葬祭料(葬祭給付) | 労働者が業務災害により死亡した際、遺族が葬儀費用の補助を受けることができます。 |
介護(補償)給付 | 傷病等級1級または2級に該当する胸腹部臓器・精神神経の障害が残り、要介護認定を受けた場合に支給される給付です。 |
障害(補償)給付 | 業務上の事故や病気により後遺症が残った場合、障害等級に応じて給付を受けることができます。 |
各種請求書の様式は、提出先の窓口で交付を受けられる他、厚生労働省のWebサイトからもダウンロード可能です。労災保険の適用条件や給付の詳細については、厚生労働省の公式情報を事前に確認することをおすすめします。
厚生労働省 | 「FAQ(よくある質問)- 労働基準行政全般に関するQ&A 」
厚生労働省 | 「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」
労災保険の申請手順
労災保険の申請手順は、申請する給付の種類や状況によって異なります。
基本的な申請の流れは以下のとおりですが、具体的な手続きについては事前に労働基準監督署へ確認することをおすすめします。
労働災害が発生したことを会社に報告する
労災保険の適用には、事業主の報告が必要となるため、速やかに会社へ連絡します。
医療機関を受診し、労災保険の手続き中であることを伝える
労災指定医療機関であれば、窓口で労災保険の適用を申し出ることが可能です。
それ以外の医療機関で受診した場合は、一時的に医療費を自己負担する必要がありますが、後日、申請により払い戻しを受けることができる可能性があります。
必要書類を準備して作成する
申請する給付の種類に応じて、労災保険請求書、事故発生報告書、診断書、給与証明書などの必要書類を準備します。
関係書類を労働基準監督署へ提出する
書類が揃ったら、所管の労働基準監督署に提出します。申請の受付後、追加書類の提出や、労働基準監督署からの確認が入る場合があります。
労働基準監督署の審査後、給付が決定される
労働災害として認定された場合、請求額に応じた給付が支給されます。
申請の審査中、労働基準監督署から電話やメールで詳細な状況確認が求められることがあります。 その際、事実に基づいて正確な情報を伝えることが重要です。
厚生労働省 | 「労災保険|療養(補償)等給付の請求手続」
海外出張ならではの労災保険申請における注意点

海外出張における労災保険の申請には、以下の3つのポイントに注意することが重要です。
申請手続きに必要な書類を漏れなく準備する
給付請求書の記載内容は出勤簿や賃金台帳と一致させる
労災保険の医療費は無償だが、雇用保険分は自己負担が発生する場合がある
海外出張での労災保険申請は、日本国内とは異なり、必要書類の取得や手続きに時間がかかる場合があります。
スムーズに進めるためにも、会社の人事担当者や労働基準監督署と相談しながら準備を進めることを推奨します。
海外出張のリスクに備える!労災保険の知識と対策を万全に

海外出張中の事故や怪我には、日本国内とは異なるリスクが伴う可能性があります。
そのため、労災保険の適用条件や申請手続きを事前に把握しておくことが重要です。本記事では、海外出張時における労災保険の適用条件や、適用外となる可能性があるケース、申請手続きの流れについて解説しました。
事故が発生してから慌てるのではなく、出張前に適用条件や手続きを確認し、適切な準備をしておくことが大切です。また、労災保険だけでなく、海外旅行保険や企業の安全対策を併せて確認することで、より万全なリスク管理が可能になります。
事前の対策を徹底し、安全で安心な海外出張を実現しましょう。