海外出張がある時の年末調整はどうする?経理担当が知るべき手続きと注意点とは
年末調整は、会社にとっても、社員本人にとっても毎年の重要な手続きです。
特に、海外出張を経験すると、「自分の年末調整はどうなるのだろう」と疑問に感じる人も少なくありません。
一方で、経理担当者の立場でも、海外出張者が含まれると、「この社員の年末調整はどうすればいいのか」と判断に迷う場面が出てきます。
こうした疑問を抱えたまま手探りで処理を進めると、後から税務署に指摘される可能性もありますし、本人にとっても思わぬ税務トラブルにつながることがあります。
実は、海外出張者の年末調整には明確なルールがあり、基本を押さえれば難しくありません。
海外出張者の年末調整は、出張期間が1年未満か1年以上かで対応が大きく変わります。
1年未満の出張:通常の年末調整(12月実施)
1年以上の出張:出国時年末調整(出国前に実施)
また、「183日ルール」と混同されやすいですが、年末調整の判定とは別の制度です。
この記事では、海外出張と年末調整の関係を整理し、海外出張に行った本人、そして対応する経理担当者の双方が知っておくべき手続きと注意点を解説します。
目次
居住者・非居住者の基本
海外出張に関する税務の話では、「183日ルール」という言葉を目にすることがあります。
しかし、この183日ルールは、租税条約に基づく短期滞在者免税制度であり、日本の年末調整を行うかどうかの判定とは別の制度です。
年末調整の対応を判断する際に基準となるのは、183日ではありません。 海外出張の予定期間が1年未満か、1年以上かという点が重要になります。
また、この判定は、実際にどれくらい海外に滞在したかではなく、出国時点での「予定期間」をもとに行います。出張命令書や辞令、契約書などに記載された予定期間を基準に判断する点に注意が必要です。
この前提を踏まえたうえで、海外出張者の年末調整は次のように整理できます。
国税庁 | 「No.2012 居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)」
1年未満の出張|居住者として通常の年末調整
海外出張の予定期間が1年未満であれば、その社員は所得税法上「居住者」として扱われます。
この場合、国内で勤務している社員と同様に、12月に通常の年末調整を行えば問題ありません。
例えば、3ヵ月間アメリカに出張していた社員や、6ヵ月間シンガポールに滞在していた社員であっても、出張期間が1年未満であれば、通常どおり年末調整を実施します。
海外出張が1年未満の場
国税庁では、「居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」と定義されています。合は、日本に生活の本拠があると判断され、引き続き居住者として扱われるのです。
国税庁 | 「No.2010 納税義務者となる個人」
1年以上の出張|非居住者として出国時年末調整
一方、海外出張の予定期間が1年以上である場合、その社員は「非居住者」となります。 非居住者となった場合、12月に行う通常の年末調整は実施しません。
代わりに、出国する日までに「出国時年末調整」を行う必要があります。
出国時年末調整では、その年の1月1日から出国日までに支払われた給与を対象に、年末調整と同様の計算を行います。
例えば、7月1日に2年間の予定で海外出張する社員がいる場合、1月から6月分(出国日前に支給が確定している分を含む)の給与について、出国前に年末調整を完了させます。
非居住者になると、日本で課税されるのは国内源泉所得のみ。 一般の従業員の場合、海外での勤務に対する給与は国内源泉所得に該当せず、日本での源泉徴収は不要です。
なお、役員については扱いが異なります。 非居住者となった役員であっても、内国法人から受け取る役員報酬は国内源泉所得に該当するため、20.42%の税率で源泉徴収が必要となります。
国税庁 | 「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」
年末調整の手続きはいつまでにすべき?
出国時年末調整は、出国する日までに完了させなければなりません。
具体的には、その年の1月1日から出国日までに支給期が到来する給与(支払いが確定した給与)を対象に、年末調整と同じ計算を行います。
国税庁の案内では、「給与の支払者は、非居住者となる人に対してその年中に支払った給与について、出国の時までに年末調整をしなければなりません」とされています。
例えば、7月15日に出国する場合、7月分の給与(7月末支給予定)が出国日前に確定していれば、その給与も出国時年末調整の対象に含まれます。
出国後に年末調整を行うことは原則できないため、出国前に必ず完了させなくてはいけません。
国税庁 | 「No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収」
必要書類と控除の適用範囲
出国時年末調整で必要となる書類は、通常の年末調整とほぼ同じです。 ただし、控除の適用範囲には違いがあります。
控除には大きく分けて「物的控除」と「人的控除」の2種類があります。 それぞれ出国時年末調整での扱いが異なるため、注意してください。
物的控除とは
物的控除とは、実際に支払った金額に基づいて適用される控除のこと。 出国時年末調整では、出国日までに実際に支払ったものが対象となります。
主な物的控除は以下の通りです。
社会保険料控除
出国日までに給与から控除された社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など)が対象です。
生命保険料控除
出国日までに実際に支払った生命保険料が対象です。
年払いの保険料を12月に支払う予定であっても、7月に出国する場合、その年払い分は控除できません。
ただし、年払いであっても出国前(例:1月)に既に支払い済みであれば、全額控除できます。
月払いの場合は、出国日までに支払った月数分のみが控除対象となります。
地震保険料控除
出国日までに実際に支払った地震保険料が対象です。
小規模企業共済等掛金控除
iDeCo(個人型確定拠出年金)や小規模企業共済などの掛金で、出国日までに支払ったものが対象です。
医療費控除
出国日までに支払った医療費が対象です。
ただし、出国時年末調整では医療費控除を受けることはできないため、医療費控除を受ける場合は確定申告が必要となります。
人的控除とは
人的控除とは、納税者本人や扶養家族の状況に応じて適用される控除のこと。 出国時年末調整では、出国時の現況で判定します。
主な人的控除は以下の通りです。
基礎控除
すべての納税者に適用される控除です。 令和2年分以降は、合計所得金額に応じて控除額が変わります(最大48万円)。
配偶者控除・配偶者特別控除
出国時点で配偶者がいる場合、その時点での配偶者の所得状況に応じて控除が適用されます。例えば、7月に出国する場合、7月時点で配偶者が扶養要件を満たしていれば、1年分の配偶者控除を受けられます。
扶養控除
出国時点で扶養親族がいる場合、1年分の扶養控除を受けられます。
扶養親族の範囲は、配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)で、納税者と生計を一にしており、合計所得金額が48万円以下の人です。
障害者控除
出国時点で納税者本人、配偶者、扶養親族が障害者に該当する場合、控除が適用されます(一般の障害者27万円、特別障害者40万円)。
寡婦控除・ひとり親控除
出国時点で寡婦またはひとり親に該当する場合、控除が適用されます。
勤労学生控除
出国時点で勤労学生に該当する場合、27万円の控除が適用されます。
手続きを忘れた場合は納税管理人に頼る
出国時年末調整を忘れてしまった場合、出国後に年末調整をやり直すことは原則できません。
ただし、このようなケースでも、「納税管理人」を選任することで、確定申告などの手続きを通じて対応することが可能です。
納税管理人は、日本にいない本人に代わって税務署との手続きを行う役割を担います。
誰を納税管理人に選べるのか、どのような手続きが必要なのか、また実務上どの程度の負担や費用がかかるのかを事前に把握しておくことが重要です。
以下では、納税管理人として選任できる人、選任の手続き、役割、費用の目安について順に解説します。
国税庁 | 「No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任」
選任できる人
配偶者や親、兄弟姉妹などの親族
友人・知人
会社の経理担当者
税理士
実務上は、親族や会社の経理担当者が納税管理人になるケースが多く見られます。
選任の手続き
納税管理人を選任する場合、「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を税務署に提出します。 提出先は、納税者の住所地(出国前の住所地)を管轄する税務署です。
届出書には以下の情報を記載します。
納税者の氏名、住所、マイナンバー
納税管理人の氏名、住所、電話番号
選任年月日
届出書は国税庁のホームページからダウンロードできます。
国税庁 | 「所得税・消費税の納税管理人の届出書」
納税管理人の役割
納税管理人は、納税者に代わって以下の手続きを行います。
確定申告書の提出
納税
税務署からの書類の受領
税務署への問い合わせ対応
納税管理人は、納税者から委任を受けて手続きを行うため、あらかじめ必要書類や情報を納税者から受け取っておく必要があります。
費用について
親族や友人に納税管理人を依頼する場合、通常は無償で引き受けてもらえます。
税理士に依頼する場合は、報酬が発生します。
報酬額は税理士事務所によって異なりますが、年間数万円程度が目安です。
出国時年末調整を忘れた場合でも、納税管理人を選任すれば適切に手続きを進められます。 ただし、手間がかかるため、出国前に必ず年末調整を完了させておくことが最善です。
海外出張旅費と年末調整の関係
海外出張にかかる旅費の扱いについても、年末調整に影響する場合があります。
出張旅費は原則非課税
会社が役員や社員に支給する出張旅費は、その旅行のために通常必要な金額であれば、所得税法上非課税となります。
具体的には、航空券代、宿泊費、交通費、出張手当(日当)などが非課税となります。
ただし、「通常必要と認められる範囲」であることが条件です。 同業他社や同規模の企業と比較して、妥当な金額であれば非課税として扱われます。
課税される場合の具体例
一方、以下のような場合は給与として課税される可能性があります。
過度に高額な出張手当:役員報酬などに比べて出張手当が高額すぎる場合、その超過部分は給与として課税されます。
観光を含む出張:業務と観光が混在している出張で、観光部分の費用まで会社が負担している場合、その部分は給与として課税されます。
家族同伴の出張:業務上の必要性がないにもかかわらず、家族の旅費まで会社が負担している場合、家族分の費用は給与として課税されます。
よくあるケースと対応方法
海外出張における年末調整では、様々なケースによって対応が異なります。 ではどういった対応をすべきなのか、以下で解説します。
ケース1:年度途中で1年以上の出張が決まった
4月に「2年間の予定」で海外プロジェクトへの出張が決定し、5月1日に出国する場合、4月末までに1月から4月分(または5月分まで、出国日前に支給が確定している場合)の給与について出国時年末調整を実施します。 出国が決まったら、できるだけ早く経理部に連絡してもらう仕組みを作っておくことが重要です。
ケース2:短期出張が延長されて1年を超えた
当初「6ヵ月の予定」で3月に出張したが、8月に延長が決まり、合計14ヵ月の出張になった場合、延長が決定した時点で、顧問税理士に相談して判定を見直します。 「予見できなかった延長」であれば、当初の判定(居住者として扱う)は有効と考えられますが、個別の状況によって判断が分かれます。
ケース3:年末年始に海外出張中
11月から翌年2月まで、3ヵ月間の海外出張で、年末調整のタイミングで本人が不在の場合、3ヵ月間の出張なので居住者として扱い、通常の年末調整を行います。
本人が不在でも、メールや郵送で必要書類を回収し、12月中に年末調整を完了させます。
ケース4:複数国を転々とする出張
1年間で、アメリカ2ヵ月、ドイツ3ヵ月、シンガポール2ヵ月と、複数の国を移動しながら出張する場合、全体の出張期間で判定します。 この例では合計7ヵ月なので、1年未満として居住者扱いとなり、通常の年末調整を行います。
ケース5:半年出張後、一時帰国して再度半年出張
4月から9月まで6ヵ月出張し、10月に一時帰国、翌年1月から6月まで再度6ヵ月出張する場合、それぞれの出張期間で判定します。 この例では、各出張が6ヵ月ずつなので、どちらも1年未満として居住者扱いとなり、通常の年末調整を行います。 ただし、最初の出張開始時点で「2回に分けて合計12ヵ月以上の出張になる」ことが予定されていた場合は、当初から非居住者として扱う必要があります。 判定時点での予定がポイントになります。
ケース6:出張期間が不明確な場合
「プロジェクト完了まで」という条件で出張し、期間が明確に決まっていない場合、プロジェクトの内容や過去の類似案件の実績などから、合理的に期間を推定します。 こうした判定は慎重に行う必要があるため、税理士に相談することを強くお勧めします。
経理担当が注意すべきこととは
海外出張者の年末調整を経理担当者が対応する場合、いくつかの重要なポイントを押さえておかないと、判断ミスにつながるおそれがあります。
海外出張が絡むと、通常の年末調整よりも確認事項が増えるため、事前の整理が欠かせません。
まず重要なのが、出張期間を正確に把握することです。
出張命令書や辞令、航空券の予約記録などをもとに予定期間を確認し、出張管理台帳などで、出張期間や居住者・非居住者の判定、年末調整の実施状況を記録しておくと管理しやすくなります。
あわせて、社内の連絡フローを整備することも重要です。
出張決定時や延長決定時に、人事部・経理部・本人の間で情報が確実に共有される仕組みを作っておくことで、出国時年末調整の実施漏れを防げます。
年末調整前には、その年に海外出張した社員をリストアップし、「出張期間と判定が正しいか」「1年以上の出張者について出国時年末調整を実施しているか」を必ず確認しましょう。
年末調整をスムーズに行うには?
海外出張者の年末調整を正確に行うためには、出張期間や出国日の情報を確実に把握しておくことが欠かせません。
特に、年末調整の対応が「1年未満か、1年以上か」で分かれる以上、出張管理の精度がそのまま税務リスクに直結します。
そこで活用すべきなのが、BTMサービスです。 BTMサービス(ビジネス・トラベル・マネジメント)は、出張の申請から手配、経費精算までを一元的に管理。
出張期間や出国日、帰国予定日といった情報がシステム上に集約されるため、経理部や人事部が年末調整に必要な情報をタイムリーに確認できます。
また、出張期間の延長や変更が発生した場合も、情報が即座に更新・共有されます。
そのため、「1年以上の出張に変わっていたことに気づかなかった」といったミスを防げるのです。
海外出張者が増えるほど、個別対応や手作業での管理には限界があります。
BTMサービスを活用して出張情報を整理しておくことが、年末調整をスムーズに進めるための現実的な対策といえるでしょう。
海外出張が見込まれるのならBTMサービスの活用を
海外出張者の年末調整は、例外的なケースがあり、簡単に行えることではありません。 しかも、経理担当者などが代わりに行ってミスをした場合、海外出張者は面倒に巻き込まれてしまいます。
BTMサービスを導入する企業は年々増えており、あらかじめ契約している旅行代理店があれば、出張の計画から手配、精算、パスポート情報、実績管理に至るまで、一連の業務を一元的に管理することが可能になります。出張や渡航に必要な手配──航空券、ホテル、査証の確認、24時間のアシスタントサービスなどを管理できる「Smart
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